子ども達が起こした奇跡アトリエでも園やイベントなどの子ども達と接する現場で、本来ならばそうはならないというような状況で、いい意味でそうなってしまう奇跡にこれまで何回も出会ってきました。今回もそのひとつ。先週、久しぶりに行った園の積木指導の時のことです。毎年4月恒例の円筒を皆でつくった後に、時間が余ったので、25名のクラス全員で一人ずつ立方体を積んでいって、全員積めるかやってみました。背の順でひとりずつ前に出て積んでいきます。25名は調度いい人数で、程よい緊張感のある高さで、集中してやればおそらく99%成功する高さです。とは言っても、倒したらどうしよう、という気持ちはどの子にもあるので、みんなドキドキです。24名まで順調に進み、最後の一人。がなんとクラスで一番落ち着きのなく指示もとおりにくいRちゃん。皆と一緒に何かをするのが苦手で、もう少し年齢が高くなったら、空気が読めないと言われるタイプの子です。一瞬、私は、「どうしよう。こういう子は先に入れといてよー」と思いました。それは子ども達も一緒だったようで、子ども達の顔も曇ります。でも、それはほんの一瞬で、すぐに「Rちゃーん、がんばれ!!」の声に変わりました。皆の大声援の中、いつも知らん顔のRちゃんの表情が変わりました。私がそれまで見たこともない表情でRちゃんが最後の一つを積もうとしています。両手が震えていました。ものすごく緊張しているのがわかります。そして積み終えたその瞬間、歓声が大爆発!!やったあ!!Rちゃんを皆で囲んでの大歓声。全身、鳥肌がたってしまいました。Rちゃんも嬉しそうです。それから4人グループで30個に挑戦して遊んだのですが、Rちゃんはその間、放心状態になってしまい、教室のすみっこに座り込んでいました。時間にすれば1分もない間のことでしたが、Rちゃんにとっては、ものすごく緊張してものすごく集中して疲れてしまったんですね。だから普段は自分を守る為に、空気を読まないで、好きなようにしているんだと思いました。だけど皆の応援はRちゃんに確かに届いて、Rちゃんの心が動いたのだと思います。こういう現場での体験から、私は、やっぱり心は伝わる、愛情は伝わると確信するようになりました。こういうタイプのお子さんには訓練が必要だという動きが教育の分野では定説になり、最近はそれが強く言われるようになってきています。その訓練法やテクニックも教育の現場で紹介されるようになりました。でも、私はその前にすることがあるだろうと思います。訓練やテクニックよりも大切なことが抜け落ちていることに気づいて欲しいと思います。どんなお子さんであれ、先を急がず、子どもをつくりあげようとせず、子どもの力を信じて待つこと。子ども達がその力を自分で引き出せる環境を用意することと、困った時にそっと援助してあげること、そしてどんな生き方であれ応援してあげること、それが私達大人ができることではないかと思います。夏本番がやってきました。子ども達が大きく成長する夏休み。決して戻ることのない、かけがえのない子ども時代の夏を、思いっきり楽しませてあげたいですね。

2020年7月②アトリエ講師 星野由香